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「Let's begin、パート19」大阪市、西区、阿波座

浅田次郎の「一刀斎夢録」という長編小説を読み終わった。

新撰組の三番隊長を務めていた斎藤一(さいとうはじめ)が、戊辰戦争の度重なるいくさ

を潜り抜け、西南戦争にも参加し70歳を超えた大正時代まで生き延び、剣の道を究

めようとする若い陸軍将校を相手に、京都での新撰組華やかしころから政府軍の反逆

者の位置に追いやられて悪者扱いされて次々無惨な最期を迎えるまでを、記憶を辿って

話し聞かせることが小説になっている。

新撰組の内部では、居合術の名手だった斎藤一は暗殺を行う殺し屋のような役割

だったようだ。


幕末のややこしい様々な事情が初めて頭で整理されて解決されたような気がした。

大きく分けていわゆる幕府と長州藩と薩摩藩の立ち位置である。

大政奉還と王政復古の意味も少しは分かった。

幕府軍も倒幕軍も皆揃って抱いていた危惧。

それは海外の国々からの侵略である。

イギリスやロシアがあちこちの国を力で侵略し、どんどん植民地の手を広げていた時代、

いずれ日本も彼らに植民地とされてしまうことが明白だった。

だから今までのように徳川幕府中心の政治では太刀打ちならない、という焦りがあった。

幕府は幕府で今まで通り士族を中心に海外からの防御を考えて行けばよい、と思って

いたようだ。

その結果薩長軍と幕府軍がぶつかり、徳川慶喜がどこかに逃げてしまい、幕府軍は頭

を失くした軍隊となってちりぢりばらばらになって、薩長軍が勝利し明治政府が開かれる

こととなる。


この本の中で、目を剥くような新事実が幾つか記してあった。

まずは坂本龍馬を暗殺したのは京の町の見廻組、と呼ばれる幕府の武士たちとされて

いるが、実はこの斎藤一が一人でやったことと言うのだ。

それと西南戦争で西郷隆盛が明治政府に反旗を翻して国賊となって死んだ、その本当

の理由。


幕府側に付いていた薩摩藩が、坂本龍馬の働きによって長州藩に寝返り薩長軍が形成

された。

幕府側にしてみれば大きな裏切りであり、巨大な倒幕軍の誕生を後押しした坂本龍馬

が許せなかった。

幕府から降りて来た命が坂本を秘密裏に消せ、というもので、それを実行したのが斎藤一

ということになる。

そんな説は聞いたことがなかった。

本では斎藤が京都近江屋で坂本、中岡を殺害する経緯と方法が細かく記されている。


今一つは明治十年に勃発した西南戦争である。

明治となって十年過ぎ、すでに新政府は機能していて、西郷も陸軍大将としてその明治

社会に組み込まれて働いていた。

にも拘わらず西郷は突然士族たちを引き連れて九州に立てこもり、明治政府に反旗を

翻したのだ。

この西郷のやったことの意味がよく分からないままであった。

おそらく明治政府を開いたものの、大久保利通と仲違えしての行動だろうと理解していた。

しかしこの本では、学校の教科書、またはNHKの特番などで聞いていた事実をひっくり

返すような新事実が書かれている。


明治政府が開かれたことで封建制度下の特権を失った不平士族の先頭に立ち、政府に

反旗を翻した西郷は、最後には鹿児島の城山に立てこもるが、政府軍に包囲され攻撃

を受ける。

「もうここでよか」と西郷は告げ、仲間と共に銃弾飛び交う中へと城山を走り降りる。

銃弾を受けた西郷はその場で自決したと言われている。

この一連の西南戦争自体が、西郷と大久保によって仕組まれた大芝居であるというのだ。


倒幕を成し得て明治政府を開いたはいいが、なお二つの大きな問題を抱えていた。

一つは何百年続いて来た武家社会。

百姓から吸い上げた年貢から大名たちの石高によって配当される取り分。

大名に追随するこもごもの武士たち。

彼ら武家はいくさがなくてもその取り分は変わらず、家来たちを養いながら生活を

維持できた。

ところが明治政府が立ち上がり、廃刀令、断髪令が発布され武士は特権を奪われ、

とても安い賃金で区役所に働きに出たり、教師をやったり、悪くすると物乞い同然の

生活に落ちて行った。

日本全国にいる武家のすべてが不満を爆発するべく鬱鬱としていたのだろう。

この状態では海外からの侵略に立ち向かうことはできない。

今一つは再び政権を朝廷に戻し、尊王攘夷の国を取り戻すこと。

いくさに勝利するには、軍力が勝っているだけではだめだという。

戦う戦士たちが心を一つにできる国の頭たる存在がなければ、真の力を発揮すること

はできないという。

蟻たちが自分たちの中から女王蟻を仕立てて群衆を一つにまとめることを見ても、

やはり我々が一丸となって力を発揮するには、どうしても頭たる存在が必要となるの

だろう。


この二つの大問題を解決すべく、西郷が結論付けた策とは。

自分と薩摩藩を犠牲にして日本を一つにまとめ、いち早く海外への防衛を成立させる

ことだった、という。

どうして西郷が幕府軍に反旗を翻すことでそれが成立するのか、今一つ理解できない

が、とにかくそのことで数十年後には大国ロシアに勝利するという偉業を成し遂げる

ことに繋がる。

武家の不満を爆発させ、明治政府の最新型の軍隊の前には歯が立たないことを知らし

め、自分が負けて死することで真に武家社会に幕を引くことができると考えたのかも

しれない。

日本国の未来のために自分を犠牲にした、ということか。

大久保利通は西郷のシナリオ通りに動いたに過ぎない、という。

もしこの話が真実とすれば、西郷はどこまで大物なのだ、という感動に打ち震える。

英雄として彼の死後二十年後に上野の山に三メートルの銅像が建てられて当然、

ということになる。

この本によれば、西郷隆盛こそが現代の日本国の礎を築いたということもできる。

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